3月11日、横浜市立下野庭小学校にて、湯澤三郎講師による出前授業を実施、「世界が舞台だ!夢と希望を実現する旅が始まる!」と言うテーマで講演しました。
湯澤三郎講師略歴:(一般財団法人 国際貿易投資研究所 (ITI) 顧問) 1940年、横浜生まれ。 栄光学園中学・高校から早稲田大学 政治経済学部へ進学。 1963年、日本貿易振興会 (JETRO) に入職、米州課長、海外調査部長等を経て理事に就任。 この間、スペイン、エルサルバドル、ペルー、米国、ブラジル駐在。 エジプト通産大臣輸出振興アドバイザーを歴任。 1999年、在エルサルバドル特命全権大使、2003年帰国しJETRO 特別顧問。 2011年(一財)国際貿易投資研究所 専務理事 兼 『世界経済評論』編集長。 2019年 理事長、2021年7月より現職。
以下、湯澤講師の出講報告です。
世界が舞台だ! 夢と希望を実現する旅が始まる!
阿部派遣委員長から下野庭小学校6年生への出講依頼を受けたのは2月16日。国際協力について6年生に話してもらいたいという依頼でした。実は以前、横浜市立梅林小学校の黒木校長先生が、下野庭小校長に転任されており、卒業を控えた6年生に教科書にあった国際協力を取り上げたいという趣旨のようでした。6年生の教鞭を執られている御宿先生がイスラムの考え方について、生徒に話して欲しいというご希望をお持ちということも分かりました。3月1日、Zoomのテストランを行った際、御宿先生のご意向も窺うことができました。
扨、国際協力を生徒さんに興味を持って聞いて頂くにはどうしたらいいか。「社会科の教科書の関係部分のコピーを頂いて送ります」と阿部さんから有難いアイデアを頂きました。授業で国際協力をどういう角度でどこまで取り上げているか分かれば、大きな助けになります。頂戴したコピーでは、アフガニスタンで27キロの水路を掘り、荒涼たる地域を緑化・畑作化した中村 哲さんの偉業を数頁にわたって紹介されていました。中村さんの献身ぶりについては、既にこれまでの出講で紹介していたので、我が意を得たりの思いでした。
生徒さんたちは、授業の2番煎じのような話は聞きたくないでしょう。そこで組み立てとして、将来の夢や希望が必ず世界と関わり合いがある、どういう可能性があるかを紹介しながら、進学の際の夢と希望を膨らませる時、途上国の人たちに役に立てることを思い出しれ欲しいというポイントを設定しました。
世界が多様性に満ちた例の紹介に、まずカイロでの経験を話しました。約束してもその時間に来ない、また約束の時間に訪問しても相手がいないといったことが数度あり、はてこの裏に何かあるのではと思い当たった仮説をエジプト人に質してみました。答えは「その通りここではアラーの神と人間との関係が第一、人間間のことは二の次」という訳でした。「行く心算だった」けど別件が急に起きた。これはアラーの神からの思し召しだろうから、そちらの約束を後回しにしただけのよくあることだそうでした。「どうして来られなかったのか」電話で聞かなくてよかったのです。もし事情を質したらそれからの付き合いは難しくなるような気配が窺えました。「約束の時間は守る」という日本人の思い込みが、全く通用しない世界があると頭を叩かれた思いでした。「世界は色々」を改めて思い知らされました。
夢と希望を改めて考えてもらう時に、大谷翔平選手が高1の時に残したメモが素晴しい示唆を与えてくれます。出講に際してはいつも「何になりたいかと同時にどういう人になりたいか」を具体的に描くことの大切さを話しています。大谷選手は高一の時に、「8球団からドラフト1位を指名される」目標を掲げるだけでなく、「どういう人になりたいか」を具体的に描いていました。全体で81項目のうち、18項目は「どういう人になりたいか」、その具体的な目標を設定しています。アメリカの球場で称賛された「球場のゴミ拾い」もちゃんと1項目に入っています。審判員へのフレンドリーな態度も「審判さんへの態度」という項目があります。MVPに輝いた大谷選手への称賛は、大谷選手が「どういう人」になりたいか、目標と実行への努力を物語っています。
興味深いことに、大谷選手の目指す人間像を国に置きかえてみると、ズバリ国として目指す姿が浮かび上がります。曰く「計画実現に向けて努力を続け、周囲の国々に感謝し、礼儀と思いやりを忘れず、愛され信頼される感性豊かな国、日本を目指す」となります。
その活動の中に国際協力が位置付けられます。日本人がどんな仕事に就いても必ず世界と関わりがある時代になっている。国際協力は政府だけの問題ではなく、既に日本の社会は外国人労働なくしては成り立たなくなっている。そうした途上国から来ている外国人にどう接して行くかから、国際協力は始まる。そうした外国人の多くは借金して来ていて、毎月生活費を節約して本国の家族へ送金している。「頑張れ」と声をかけてあげたくなる。日本も明治30年ころから国内の就職機会がないために、主として農業移民としてメキシコ、米国、ペルー、ブラジルなどに移住してお世話になった。
世界人口の6割強は途上国で貧困、格差、失敗、汚染、未就学など多くの課題を抱えている。これは世界を体に例えれば、体の一部に痛みを生じているようなもの。皆でその痛みを直して健康体にして笑顔を成長できるようにしたい。国際協力はそのための活動。
政府は①有償資金協力(円ベースの借款)②贈与(無償)③専門家派遣・現地関係者招聘研修を軸にした現地課題解決をめざす技術協力④青年並びにシニアの海外協力隊員派遣による現地課題解決等を軸に協力しています。取り組む分野はインフラ、産業開発、行政改善から地域の人々の健康・暮らしに至るまで様々になります。
中学生になって「何になりたい」と考えるとき、どんな分野でも途上国の地域・人々の役にたてるかもしれないと思ってください。技術専門家が難しければボランティアで青年海外協力隊員として働くこともできます。政府の取り組みの他に、自分たちで自主的活動しようという人たちの団体、NGO/NPOがあります。政府とは独立し、営利を求めず、自立、自発的な組織づくりと活動を主に途上国向けにしています。アフガニスタンで65万人を救った中村 哲さんもNPO団体(福岡のペシャワール会)をバックに活動しました。
残念ながら日本の途上国向けに働くNPOは100団体程度で規模も活動も世界に比べるとケタ違いに小さいものです。世界では4~5万の団体があり、欧米の大学卒就職ランキング・ベスト10に入るほど社会的な評価、存在感も大きくなっています。日本のNPO
の規模が小さいのは、一般からの寄付が例えば米国と比べて20%程度と低いというのも一因になっています。
国際協力では自分の反省も含めていつくかの留意する点があります。まず、現地の活動では熱心さのあまり、現地の人より日本人のほうがやり過ぎてしまう点です。また日本流をベストとして現地の風土、習慣、文化を二の次にしてしまう点です。日本人専門家は通常3年程度で帰国するので、交代がくればまだマシですが、いずれは現地の人たちだけで受け継いだ技術を運用・作業していかなければならない。専門家なきあとで自立的に継続可能な体制づくりを心がけておかなければ、真の技術協力にならないのです。
そういうことがあってもなお、日本の協力は評価が高く、信頼されている。現場で働く専門家たちの努力の賜物でしょう。日本人らしく、常により良く(カイゼン)、きちんと、とことんまで仕事に取り組むなどの姿勢が評価されるのでしょう。
自然界は様々で実に多様であるように私たち人間も皆違います。しかし、その違いこそ進化・発展の鍵があります。自分は自分ならではの才能、能力を必ず持っています。自分なんか何も才能がないと思っても、「人の話を聞く」ことができればそれだけで素晴らしい才能です。殊に今はネット時代で皆話したい人ばかりです。聞く人は聞かない人より学ぶ機会が増えます。誰もが自分にない、その人ならではのものを持っている。それを学べるのは大きな恩恵です。誰もがそうして自分だけでなく、周囲の人たちによって育てられ、成長させられるわけです。夢や希望を持っていても、実現は一人自分だけでできるものではありません。意外な人が自分を認め、背中を押してくれることがあります。新しい経験、機会には進んで挑戦してみて、知識や人のつながりを豊かにして、思っていた自分と違う自分を発見してください。
中学では新しい学科が出てきます。好き嫌いではなく、思いがけない学科のなかで自分の可能性や自分が興味を持つ新しい分野があるかもしれません。楽しみにして中学生になってください。