横浜市立東汲沢小学校に湯澤講師を派遣しました。

2月6日、横浜市立東汲沢小学校に湯澤三郎講師を派遣し、卒業を控えた6年生に【羽ばたこう、ワクワクする「出会い」が待つ世界へ!】というテーマで講演を行いました。

湯澤三郎講師略歴:(一般財団法人 国際貿易投資研究所 (ITI) 顧問)1940年、横浜生まれ。栄光学園中学・高校から早稲田大学 政治経済学部へ進学。1963年、日本貿易振興会 (JETRO) に入職、米州課長、海外調査部長等を経て理事に就任。この間、スペイン、エルサルバドル、ペルー、米国、ブラジル駐在。 エジプト通産大臣輸出振興アドバイザーを歴任。1999年、在エルサルバドル特命全権大使、2003年帰国しJETRO 特別顧問。2011年(一財)国際貿易投資研究所 専務理事 兼 『世界経済評論』編集長。2019年 理事長、2021年7月より現職。NPO法人 国際人をめざす会 講師(海外駐在20年超の経験)

以下、湯澤講師の出講報告です。

横浜市営地下鉄ブルーライン踊場駅から10分ほど坂を登った高台に東汲沢小学校はあります。阿部派遣委員長と駅で合流して、冬晴れの戸塚の文教地域を眺めながら、校門に到着。そこで東汲沢小学校の学校・地域コーデイネーターの吉田和宏氏とばったりお会いし、校舎では田邊訓志副校長のご案内で校長室に向かいました。河瀬靖英校長のご説明では当校はインスタグラムを導入し、学校と保護者、地域との密接な関係を維持している意欲的な先進校のようです。今回の出講も阿部委員長から吉田氏へ可能性を打診され、阿部委員長の説明を受けて河瀬校長はその場で即決したと伺いました。

会場となる体育館では6年生の学年主任吉川賢宏先生のお計らいで既にスクリーン、プロジェクターのセッティングは完了しており、持参のUSBですぐに投影テストができました。スライドめくりは壇上で阿部委員長にお願いして、私は75人の6年生が体育座りするフロアでお話を始めました。

出前授業のタイトルは「羽ばたこう、ワクワクする”出会い“が待つ世界へ」です。

タイトルや主題はは昨年と同じですが、内容の半分をより訴求力のあるものに改めました。伝えたいことは「自分らしさ」の発見、様々な「出会い」が自分らしさを引き出し、発見する鍵となる、「出会い」を大事にしよう、どうすれば沢山の「出会い」を経験できるかというのが主題です。

自分らしさは誰にもない、自分だけの貴重なオンリーワン。他人と比べることはできず、上下、優劣もない。一人一人が自分らしさを発揮すれば世界はもっと豊かで明るくなるだろう。出会いの場は色々ある。ヒト、できごと、メディア(TV,新聞、インターネット、映画)や芸術、本、そして自然。毎日の暮らしは出会いに満ちている。どういう人たちがどんな出会いで自分らしさを発見したかを見てみよう。小学校を退学させられて転校先の校長先生から黒柳徹子さんがもらった「本当は君はいい子なんだよ」という言葉。引きこもりだったあのちゃんが一歩進んで応募したプロダクションとの出会い。苦しい時に監督がくれた「何も咲かない寒い日は下へ下へと根を伸ばせ、やがて大きな花が咲く」言葉を胸に刻んで厳しい訓練に耐え、シドニー五輪女子マラソンで優勝した高橋尚子さん。中学入試で挫折した茨木君が母親に勧められて読んだ「赤毛のアン」の「曲がり角の向こうにはきっともっと良いものがあるに違いないと思うの」という言葉との出会い。そのいきさつを書いた作文が2万7千の応募の最優秀賞になった。高校、大学そしてプロ選手になっても再三椎間板ヘルニアに罹って歩くことさえできなくなり、その度に「もう選手生命は終わりだ」と落ち込んだものの、必死のリハビリ、訓練で無双の体幹を鍛え上げたサッカーの長友選手。病気との出会いが長友選手を育てた。サバクトビバッタ研究者の前野さんは、小学生の時は太っていて鬼ごっこで鬼になったら誰もつかまらない。段々味噌っかす扱いにされて悲しくなって下校の時、道端に座りこんだところ、目の前で出会った虫に心を動かされた。その後中学で読んだ「ファーブルの昆虫記」で一層虫に傾倒することになった。

自分らしさの将来を描き、その将来像に向かって努力を重ねる行き方もある。大谷選手がその例だ。高1の時書いた53項目の目標設定では大ピッチャーになるため、選手としての目標が3分の2で、後の3分の1はどういう人になるかを具体的にあげている。礼儀、ゴミを拾う、思いやり、信頼される人間などの項目があがっている。今でも球場で試合最中にゴミを拾う習慣がアメリカ人の称賛を呼んでいる。

自分らしさとは才能や能力、特技などが注目されるが、じつは集中する、努力する、人の話をよく聞けるなども立派な「らしさ」だ。もう一つの「らしさ」を形造るのは人柄、人となり。短い言葉でいえば、寄り添う心と人間らしくあるために必要な節度と勇気といえる。

「自分らしさ」を発見する出会いの場を人、出来事、本、自然について少し説明してみよう。 人との出会いは、言葉、笑顔、人柄、考え方、生き方など様々な形で経験する。出来事との出会いは、楽しいことが案外少なくて、むしろつらい、悲しい、嫌な出来事の方が多いに違いない。つらい時、悲しい時は先のことなど考えられずに落ち込んでしまうが、先にみた黒柳さん、あのちゃん、長友選手、京都の中学生茨木君のように、後で振り返ってみるとそうしたつらい、悲しいできごととの出会いがその後の成長や成功のきっかけになったことが理解できる。赤毛のアンが書いた通り、「曲がり角の先には何があるかわからないけれど、きっともっと良いものがあるに違いない」と思えるようになれば素晴らしい。本との出会いと言えば、既に「ファーブルの昆虫記」に出会ったサバクトビバッタ研究者の前野さんや茨木君の例でもみたとおり。本を通じて日頃経験できないような沢山の人や出来事との出会いを見つけることができる。中学の図書室へぜひ行って欲しい。読み方に二通りある。面白そうな本を次々に読む。もう一つは、日頃から「なぜだろう、何だろう」を沢山持つこと。沢山の本の中から答えがありそうな本が向こうから目に飛び込んでくるし、答えを探しながら読むのでどんどん読める。自然との出会いは誰にでも、どこでもできる素晴らしい贈り物みたいなもの。小さな虫たちや野花たちは、それぞれ自分らしさを発揮して精一杯生きている。2,3例を見てよう。ミイデラゴミムシは敵が近づくと摂氏100度の高温のおならを発射して撃退する。100度のおならを瞬間的に製造してやけどもせずに発射するのはこの虫ならではで、「らしさ」の典型みたいなもの。タンポポは弱い草花なので森では生きていかれず、踏まれてもいいような場所に生える。花が咲くときに茎はすっくと立ちあがり、花がしぼむと地面に倒れる。そして種子が熟する時が来ると再びすっくと立ち上がって綿毛が風に吹かれて飛び出し、他の場所で根を下ろす。アスファルトを押し上げて咲いているすみれ。この場合のスミレの芽が持つ圧力はタイヤの空気圧2キロの6倍もあり、その圧力でアスファルトを押し上げる。ツユクサは人に踏まれたり、ちぎれたりしても、枯れない。それは竹のように茎の芽ではなく節が成長するからだ。次はアブラムシとアリの助け合い。共生ともいう。アブラムシがお尻から出す甘い液体をアリが頂き、代わりにテントウムシなどアブラムシの敵から守る働きをしている。

それぞれ虫も植物も自分らしさを工夫して精一杯生きている。

人、できごと、自然などいろいろ新しい出会いの場を一度に経験できるのが外国だ。機会があればぜひ海外に行って欲しい。私の経験でショックだったのはエジプトでのできごと。約束の時間に相手が来ない、行ってもいない。そんな経験が数回続いた。おかしい、電話をかけて問いただしてみようか。そう思ったけれど思い直してエジプト人に相談してみてよかった。実はそれぞれの相手は私との約束を果たそうと思っていたが、別の用件が起きた。これはアラーの神がそっちを優先しろと指示されたものに違いない、と考えて私の約束時間に現れなかったのだと知った。地元では普通のことなので誰も事情をわざわざ説明をしないということだった。問いただしていれば以後まともに付き合えなくなっていた危ないところだった。この経験から、何か変だ、おかしいと思ったら、必ずその理由があるはずだと思うようになり、自分のこれまでの時間厳守といった既定のルールが常に正しいと思ってはいけないのだと理解できた。だから何事にも驚かないようになった。

自分の思い込みが、異なる世界観に出会って、変わらざるを得ない。自分らしさが異質の世界で異なった姿で引き出されるという経験は、海外へ行って初めて実感される。

中学から始まってこれから沢山の人と出会う。沢山の人が自分らしさを気づかせてくれる。豊かな出会いに恵まれるためには、それなりの準備も必要だ。それを短い言葉にまとめて言えば

「お早う、おめでとう、有難う、ごめん、よろしく、どうぞ」    というものだろう。

「お早う」は挨拶、「おめでとう」は褒めること、「有難う」も心で想うだけでなく言葉に表すこと、「ごめん」もそのとおり。「よろしく」は頭を下げること。「どうぞ」は自分の大切にしているものを相手と共有すること。これらのうち、一つでも日頃から実行を心がければ自然と輝く人となり、周囲の人が心を開いた言葉を寄せてくる。

中学で沢山の出会いに恵まれ、自分らしさを発揮できるよう、私のお話が参考になれば幸いです。

生徒さんたちに「ファーブルの昆虫記」と「赤毛のアン」を読んだことがあるかどうか質問しました。嬉しいことにそれぞれ5,6人の手が挙がりました。今回のお話をきっかけに、中学の図書室で読んでくれる生徒が一人でも増えればいいなあと思ったことでした。

「自分らしさ」は突き詰めれば自立への道程です。「人との出会い」は相手へのリスペクトにつながります。世界に羽ばたく人にはいずれも欠かせない素養です。生徒さんの心に一つでも考えるヒントを提供できたことを祈るばかりです。

生徒感想文