「日本再生への視座ー我々のなすべきこと」講師:寺島実郎
毎年恒例になりました寺島実郎氏の特別講演会を、3月26日に茅場町鉄鋼会会館にて
開催しました。当日は、約70名強の参加者を得て、18:30から約2時間の熱の籠った
講演となりました。


前半では、日本は内向きの時代に向かっている。世界の中での日本の位置が著しく低下
している歴史的事実を実例を挙げて指摘された。



・世界のGDPシェアー
第二次世界大戦後、日本のGDPが3%であったが、1988年16%となり産業立国を
実現。当時アジア全体のGDPは6%(内中国2%)であった。1994年には、日本の
GDPは、世界の17・8%となり、アジア全体のそれは5%で日本の1/3に過ぎなかった。
これがPeakであった。その後、日本のGDPは、2000年15%、2010年9%、2023年
には、4%に凋落、反面アジア全体は、24%(その内、中国が17%)と6倍に成長。
IMFは近々日本がインドに抜かれ、10年後には、インドネシアにも抜かれるとの見方
もある。日本はもはやアジアの先頭ではない。
・債務残高の国際比較(対GDP比)2024年日本が251%、ドイツが63%、英国が102%
ギリシャでも160%。日銀が赤字国債を大量に保有している。
・主要国の国債格付けでも、ドイツ、オランダ、シンガポールなどが、トリプルA
の格付けで世界のトップグループ。日本は25位。
・1人当たりのGDP、2024年予測では、日本が年間3.3万ドル、韓国が3.6万ドル、
シンガポールが8.9万ドル、香港が5.3万ドル。日本はアジア7位、世界39位に低落。
・国連分担金のシェアーも2000年の20.6%から、2024年は、日本8.0%、中国15.3%
となっている。
日本経済の埋没する実態は、ここ数年の間、粗鋼生産などの産業動向でも2割低下、
勤労世帯か処分所得は10%伸びているが、全世帯消費支出は、5.4%減、将来の不安から
消費の抑制が見られる。
その他、新聞の発行部数、書籍の発行部数も大幅に減少。
若者の技術力を競う技能オリンピック国際大会では、かつて日本は55種目で、金を含めた
メダル数が突出していたが、現在は金メダルは、中国がトップで日本は5位になっている。
この様な将来の技術力占う画期的なイベントは、日本でも一切報道もされていない。
一方、最近の世界の動向に眼を向けると、大きな動きとして注目すべき点は以下。
・トランプ2.0 米中関係の変化→米中対立からDEALへ
アメリカファーストの米国の対中関係とは、実利に基づいた関係で実践的な関係を目指して
いると思われる。トランプ大統領は、「台湾独立を支持せず」=「一つの中国」の原則を
維持し、「人権、民主化弾圧、少数民族弾圧」など理念的な事に言及せず、追加関税も
一時的な強気の60%からトーンダウンしている。
中国もロシアのウクライナ侵攻後の中国依存度が高まっていることを対して、そのリスクと
コストを意識して米国のことを見ている。
アジアの動きとして、インドネシアがBRICSに加盟後、マレーシア、タイが追加申請する
などアジアの米国離れの動きを回避するためにも、中国の協力が米国にとって不可欠
であり、米中対立は、「選別的対立」に向かうであろう。
・1920年代と2020年の近似性
第一次世界大戦後の1920年代は、ウイルソン大統領の国連への決別、第二次対戦後の
2020年代は、トランプ大統領の国連への距離、パリ協定離脱など脱・国際主義に
に進んでおり、非常に類似した状況と思われ、今後米国は、アメリカファーストで内向
して行くだろう。経済でも、1920年代は、ヘンリー・フォードを代表とする米国流
産業資本主義、2020年代は、イーロン・マスクを代表とするデジタル・金融資本主義が
進んでいる。1920年代は、「貯蓄より投資」、2020年代は、「金融資本主義」
「税負担軽減と規制緩和」というどちらも圧倒的な経済の時代という近似性がある。
・ASEAN究極の選択「中国か、米国か」ISEAS調査
ASEAN諸国が、もし中国・米国のどちらかに与しなくてならない状況なった場合、
2023年の調査では、10カ国中7カ国が米国を選択し、イスラムが多いインドネシア、
マレーシアは、中国を選択したが、数字は拮抗していた。しかし、2024年の調査では
中国を選択した国が5カ国となり、ブルネイ、インドネシア、ラオス、マレーシアでは
米国のイスラエル支援の影響から中国が70%を超える支持率となり、タイも中国を
選択している。米軍施設があるフィリピン、シンガポールでは、米国の支持率が高く
またベトナムも70%を超えている。
このような状況下、中国の支持率が増加する中で、アジアから米国を孤立させないことが、
日本の役割ではないかと思う。
・アジアダイナミズムと日本海物流
米国と中国の貿易総額は、2024年で、5,825億ドル(前年比78億ドル増)と日本と
米国の貿易総額の2倍以上になっている。この為、苫小牧沖を通過し津軽海峡を抜け
日本海を通る日本海物流(13の港湾)が大きく増加している反面、日本の太平洋港湾は
コンテナ取扱量が減少化し空洞化が始まっている。
・21世紀の日本の産業の進路
戦後日本は国際分業を進める通商国家として、工業生産力モデルを確立していった。
鉄鋼、エレクトロニクス、自動車を基幹産業としてきた。しかしながら、今後の進路を
考えるとDX(産業のデジタル化ではなくDXの産業化)やグリーン(環境技術と脱炭素
エネルギー体系)などのイノベーションが極めて重要である。
国産ワクチンの開発の遅れやMRJ(国産ジェット旅客機)の失敗などが起きたが、
日本の産業は、要素技術からの脱却し、新しい産業構造の創生への挑戦としての
「総合エンジニアリング力」が今後の鍵となろう。
具体的な分野としては、
「医療・防災」ー医療体制の戦略的布陣(診療・医療)、防災モジュールの実装化、
防災関連技術の集約・活用=国交省と「道の駅」の防災拠点化
「食と農」ー食料自給率の改善の為、付加価値の高い都市型農業(太陽光発電、食の生産)
食のバリューチェーン(生産・加工・流通・調理の強化・フードロス対策)
このように日本産業の今後の進路は、ファンダメンタルズとイノベーションの相関の中で
「総合エンジニアリング力」描き出してゆく必要があると感じている。