寺島実郎氏講演会「リベラル再生の基軸」を開催

本年の「国際人をめざす会」が主催する特別講演会は、各方面でご活躍中の寺島実郎氏(日本総合研究所理事長・多摩大学学長・三井物産戦略研究所会長)を講師にお迎えして、2014年3月3日(月)星陵会館にて開催されました。当日は、当会会員並びに一般会員約200名が参加しました。

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「リベラル再生の基軸」と題しての講演は、岐路に立つ現代に内向きに向かう日本を歴史、生命科学から分析し、直面する経済・エネルギー・外交の問題にメスを入れ、科学技術に根ざしたリベラルに日本再生を見出すと言う広範囲に渡る白熱した内容に、参加者からの興味深い質問が続き、2時間に及ぶ会となりました。

講演会終了後は限られた時間となりましたが、会場内のレストラン「シーボニア」にて約70名の参加の下、講演会の余韻を楽しみながらの懇親会を催しました。

寺島実郎氏 《リベラル再生の基軸》 講演要旨
主催: NPO法人【国際人をめざす会】 2014.3.3 於星陵会館

● 外から日本を見ることの重要性

日本は国際化疲れ・・ 20年前にバブルがはじけて内向きに。最近は中・韓になめられまいとしてプチナショナリズム、国益ではなく次元の低いナショナリズム。 日本ではかつて(平家 )(海 軍)(国 際化) にあらざれば天下を取れない、という言葉があったがいまやマルドメのほうが根性が据わっており、国際派がリードする企 業は少なくなった。例 : NY日本人補習校の人数は3分の1になっている。 国際は国のキワ、すなわちインターナショナル。 グローバルは国境線を意識 しない、 すなわち地球全体。

● リベラルの再生・・歴史は以下のごとく何も進歩していないのでは?

現状の日本から脱却する必要  株が上がって万歳ではだめ。その背景を探れば抜本的な変化ではないことに気がつくはず。
全体知の中で現代社会をとらえよ  グローバルヒストリー (日本史、世界史ではなくすべてを一体として考える)の中、プチナショナリズムは怖い。
世界のエネルギー地政学の変化 シェール革命の影響 。
アベノミクスへの視座を的確に  外資依存の株高幻影と真の成長戦略の必要性。
人間 とは何か・・生命科学の進歩からわかってきたこと  人とチンパンジーの違 いは・・差はDNAで1.2%しかない。瞬間画像分析力などを見れば納得性 高 い。 1.2% は コミュニケイション能力の違い? 人は環境適応生物、 遺伝子変化・柔らか い遺伝子。 5 百万年前に猿人出現、 20万年前にホモサピエンスがアフリカに登 場、 6万年前にグレートジャーニー出発、人類の世界各地への拡散。・・そもそ も人 類 は環境に 適 合する中でグローバルとなった。純粋な日本人は存在しない。 10世代さかのぼれば血 縁は1024 人、 20世代なら105万人、さらにさかのぼれば・・・ ? グローバルにはこの歴史認識重要 。仏教の伝来。各地の宗教の登場。 自然崇拝・形而上の偶像崇拝を 越 えた上位価値への目覚め。
歴史の進歩とは何か アイスマンの真実・・ 5300 年前の人間 。 豊かな食生活、医療行為、殺人の被害者。当時と比べて現代人類 は大きな進歩をしているとはいえない。松下幸之助のPHP ( ピースアンドハッピー・プロスペリティー ) 、松下政経塾・・ 健全な資本主義のリーダー作り必 要 と考えた。  
冷戦後社会主義敗れて資本主義、特にアメリカ流資本主義 = グローバル化といわれる時代に。⇒ 金融資本主義。マネーゲーム跋扈。
正気を取り戻さなくてはいけない・・何が正義で何が不条理なのか  トインビー (歴史の教訓) ・・節度を重んずる穏健な態度。植民地主義の限界。奴隷制はだめ。 市井三郎( 歴史の進歩とは何か ) ・・不条理の組織的制度的な軽減。

● リベラルとは

近代の考え ・・ 資本主義の原点である勤勉・刻苦奮励思想。デモクラシー ( 宗教的抑 圧の中から個人と社会との契約を大切に )。 科学技術。
グローバルヒストリー・・世界史と日本史を分けない。 17世紀オランダから・・宗教・中世の呪縛・抑制の中から自由・博愛・個としての人 間に目覚め (我)という価値に目覚めた。オランダは当時連邦制国家でもあった。アメリカの源流となった。日本・・ 西洋の科学技術に注目して(和魂洋才)。 自分で作り上げたものでなかったため真のデモクラシーを理解せず国家主義的誘惑に引っ張られる。明治の資本主義⇒マネーゲーム的資本主義礼賛。 戦後日本では与えられた民主主義を守った中で多様な知 識 人による民主主義輩出、日本人はマネーゲームに嫌悪感。 近隣諸国とはしなやかに。

● アベノミクス・・ 1年間で15%株価上昇。

実態・・民主党政権の 限界からの変化を予想し、また安倍政権の金融緩和(調整インフレ ) 、財政出動の2本の矢を見て、目先の日本株投資による収益期待から、外人・特にヘッジファンドが大量に買い越 した。この間日本の投資家は益出し・損切りで売り一辺倒(この20 年間の長期低迷で日本の投資家の痛手は大きかったため)。 外人は長期に企業を育てる目的での投 資 ではなく 目先の収益狙い (売り抜く資本主義。大型流動株中心 )。外人持ち株比率は30%を超した ? 個人のNISAによる投資は長期投資ではあるがいかんせん少額 にすぎない。外人が売却して利益を出そうとすると我が国の(年金積立金管理運用独立行政法人) が出動、株価の支えになっている。安倍政権 設 立 以来ピーク時外人は16.9 兆円の買い越 し。もし日本人が売らなかったら日経ダウは2.5 万円になっている?
外人が日本に投資している別な理由・・先進国主義⇒多極化・BRIC s ⇒米国の金融緩和縮小と途上国国内経済懸念から、途上国からの資金の流出が始まった⇒ 資金は行き場を失って日本へ。外人が売り抜けると外資主導の株高は幻想に終わる恐れ ?

● 米国経済 ・・・実体経済の好転。

エネルギー革命 ( シェールガスの波及効果により米国の天然ガス価格の低下 とエネルギー海外依存からの脱却見通し = 米経済の好 転 ⇒中東へのコミ ットメントの変化と国内経済刺激の必要性の低下 =金融 緩和の出口戦略 へ。⇒ロシアの欧州への天然ガス戦略への影響と日本への接 近 。
IT革命・・インターネットはもともと冷戦時代に米ペンタゴンが開発した技術 。中央演算装置が破壊されても大丈夫なシステムを構築。 1993 年以降軍 ・民転換。現在はフェーズ2( クラウド、ビッグデータ )。 グーグル 、アマゾンなどもう一段上へ。 米企業強い。 ICT社会(情報・ 通信技 術) 。
失業率も最近は 6.6%まで低下 (2009年 10% 、 11年には 8.9%)。・・・ 6 .5% まで下がれば本格的出口戦略に動く ?

● 世界は出口戦略

世界はマネーゲーム。世界金融資産 (255 兆ドル) はGDP(72 兆ドル )の4倍にも。為替などを入れれば更に !金融 緩和の見直し ( 出口戦略 ) は経済が 活況になってきつつあることを示すので本来は株価上昇要 因。 緩和見直しへの転換が株価下げ要因となっているのはかなり異常。

● 国際連帯税構想

世界のマネーのコントロールをめざしてフランスなどが提案。

● 我国の真の再生には・・第3の矢の実体化を!

20 年前のバブル崩壊は (冷戦の終焉 )( 米国流資本主義の世界席巻 ) と円高と日本マネーが世界進 出していた時期。 21世紀に入って全員参加型秩序への移行と(新興国リスクの高 まり)(米国の超金融緩和の転換) により、肥大化した金融が日本に向かい、日本株 高を誘発した。・・日本国内では経済がよくなったので株価が上がっているとの認識になってしまっている (外人の買いのインパクトに対して他の要因が忘れられている )。 カンフル注射では真の産業創生にはならず、 脱マネーゲーム志向が重要。 頭脳を柔らかくして取り組む必 要 。科学技 術 とリベラル・デモクラシー。 中央リニア新幹線の前倒し開通(東京・名古屋。東京・大阪も実現?) 。圏央道の開通 。・・・相模原、山梨の重要性の劇的高まり・・・物流が東京を通らなくても可能となる。東京と大阪大都市圏 7000 万人が1時間で繋がる。中型ジェット旅客機の 開 発・・ 自 動 車 産業に 集 中していた我が国産業の拡大。 アジア圏への活用。 シャトル便なども。 中国が開発熱心。 一人当たりGDP、現在世界23 位、アジアでシンガポール、ブルネイに次ぎ3位とそれぞれ下がってしまった。加えてHK、台湾が 迫 っている。シンガポール型・・IT、バイオ、メディカル。 デンマーク型・・・ 食糧、 農業、IT。 対応必要 。

【質問】

● 日本のイスラエル化とは?

悩ましい同盟国の意。
イスラエルは米国の同盟国。しかしネタニヤフ政権誕生でアラブと先鋭化して紛争の一層の泥沼化を米国は懸念。日本についても中国との尖閣紛争が先鋭化してその戦争に米国が巻き込まれることを懸念。

靖国については、日本は中国・韓国との問題と思っているが、United Nationsを、中国(含む外国)では同盟国(先の大戦の戦勝国連合) としているのに対し、我国では(一国の上に立つ国際連合 = 国連)と訳している。 認識 に差。 サンフラン シスコ平和条約を我が国が締結した以上、そこでのすべての約束(戦争犯罪についての東京裁判などを含め)を日本は否定できない。 無名戦士を敬うのは各国共通 であるが、戦争犯罪を犯した(少なくとも日本では彼らも大きな災厄を日本に もたらしたという意味では大変な責任があるはず)人間をきちんとした説明なく尊崇するという行為はその否定につながろう。 なお、4.9万人の当時日本人であった朝鮮 ・台湾の方が亡くなっているがその方々へは日本人へは与えられた遺族年金 もなかったので、 賠償を大人の施策として考える必 要 があるのでは。

● 原発問題について

リベラル、必ずしも反原発ではない 。
限 りなく原発に依存しない社会を造らねばならないのは当然。ただ日本がやろうがやるまいが米・中などはより安全性の高いトリウム原発などに邁進 している。 科学技術を断ち切ってはいけない。 原子炉に関する限り第1世代から現在は第3世代。日本の原発 54 基の内 20 基は安全性高い。 非核のための原子力・専門性の高い技術を開発維持しなくては国際的発言もできない。研究体制を継続させる必要がある。なお日米原子力協定・原子力共同体を考えると、脱原発はポピュリズムにすぎないのではないか? 核の傘に守られることを放棄し米国との関係を白紙にする覚悟なら脱原発は論理が通る。 周辺諸国とことが生じた際にはどうなるか見当がつかないリスクが残るが・・・。 従 って対米関係からは脱原発はありえない。 化石燃料と異なり原子力が等身大の技術ではない (人類が制御できない ) という点で技術研究継続という地盤とまた哲学が重要と考える。 (原発で飯を食っている、また飯を食っている人がいるから原発維持という意見 では全くない)。